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分離・精製プロセスにおけるフィルターの目詰まりを解消する革新技術が科学雑誌に掲載されました

  • 5 時間前
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株式会社Gel Coat Biomaterials、東京大学、ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社の研究チームによる論文がMRS Communicationsに採択・掲載されました。本研究の成果技術は、バイオテクノロジーや医療診断の現場で長年の課題だった「分離・精製プロセスにおけるフィルターの目詰まり」を劇的に解消することができます。本論文は、バイオ精製における業界標準を塗り替える可能性の高い成果であり、年間250億ドル(約3.8兆円)を超えるろ過・分離関連市場に対し、目詰まり解消という決定的なソリューションを提供するものです。この技術はセルロース以外の樹脂やプラスチックにも転用可能で、かつ「浸漬(ディップ)」して加熱乾燥するだけという極めてシンプルな加工(あるいは塗工)で製造できます。バイオ医薬品の製造原価を下げ、がんの早期診断を普及させる、次世代の業界標準(デファクトスタンダード)となる可能性を秘めています。

従来の課題:たんぱく質吸着によるフィルターの目詰まり

医療・製薬分野において、特定のタンパク質や細胞(ワクチン、薬物伝達体、外泌体・エクソソームなど)を分離・精製するプロセスは極めて重要です。しかし、従来の「中空糸膜(ストロー状の細い膜)」のフィルターには大きな課題がありました。膜の表面や細孔にタンパク質がこびりつき、細孔が目詰まりすることで分離精製の性能が低下します。目詰まりにより処理速度(透過流束)が低下し、フィルターの寿命が短くなります。頻繁な交換や洗浄が必要になり、運用コストが増大します。

本論文は、この「目詰まり」を抑制する特殊なコーティング技術を開発し、その実効性を証明しました。

 

技術的優位性

本技術の最大の特徴は、「タンパク質を寄せ付けない性質」「膜にしっかり定着する安定性」を両立させた点にあります。本研究で使用されたハイドロゲル・コーティングは、以下の3つの役割を持つ分子を組み合わせています 。

1.    親水性ユニット: タンパク質を吸着せずに跳ね返します 。

2.    疎水性ユニット: 膜の表面にしがみつき、コーティングを安定させます 。

3.    界面結合性ユニット: 膜の表面に結合し、剥がれにくい強固な膜を形成します 。

 

結果

一般的に、コーティングを厚くすると目詰まりは防げますが、水の流れ(透過性)が悪くなります。しかし、本研究において、Gel Coat Biomaterialsのハイドロゲルが以下の優れたバランスを実現することを実証しています。

  • 高い透過性を維持: 未加工の膜と比較して50%以上の水流量を維持します。

  • 圧倒的な防汚性能: γ-グロブリンなどの大きなタンパク質による目詰まり(流量低下)を劇的に抑制します。

  • 均一な被膜: わずか20ナノメートルという極薄かつ均一な膜を、中空糸の内側に形成することに成功しました。


 

データ

Figure 4 (c) (i) : 透過流束(Flux)の経時変化

このグラフは、時間の経過とともに「どれだけスムーズに液体が膜を通り抜けられているか(LMH:1時間・1平米あたりの透過量)」を示しています。

未加工の酢酸セルロース(CA)膜(青色プロット):開始直後は最も高い流束を示しますが、時間の経過とともに「大幅な低下」が見られます 。これは、膜の表面や細孔にタンパク質が急速にこびりつき、目詰まり(ファウリング)が進行していることを意味します。

PMMMSi60修飾膜(黄色・緑色プロット):初期の流束は、コーティングによる抵抗があるため未加工膜より低くスタートします。しかし、時間の経過による低下はわずかであり、最終的には未加工膜よりも高い流束を維持する逆転現象が起きています。

結論: 修飾膜は、長時間の製造プロセスにおいて圧倒的な優位性があります。

 

Figure 4 (c) (ii) : タンパク質透過率の変化

このグラフは、溶液中のタンパク質がどれだけ膜を通り抜けているか、その「変化量」を示しています 。

Δ C_p/C_fとは、ある時点の透過率から、開始5分時点の初期透過率を差し引いた値です。

未加工のCA膜(青色プロット):値がマイナス方向に大きく低下し、最終的に -0.25 近くまで落ち込んでいます 。これは、タンパク質が膜にどんどん吸着されてしまい、出口(透過側)に出てくるタンパク質の量が減っている(=膜による製品のロスがある)ことを示しています。

PMMMSi60修飾膜(黄色・緑色プロット):値の低下は非常に小さく、0に近いレベルで安定して推移しています。これは、タンパク質が膜に吸着されることなくスムーズに通り抜けており、初期の分離性能が長時間維持されていることを証明しています。


 

結論

本技術は「製品の吸着ロス」を防ぎ、一定の品質で回収し続けることができるため、高価なバイオ医薬品や診断対象(エクソソーム等)の精製において極めて有効です。膜への不要な吸着を防ぐことで、ターゲット物質の回収ロスを最小限に抑えられ、250分経過しても性能が安定していることから、フィルターの交換頻度を大幅に削減できます。

 

発展性・将来展望

この技術は、広く応用することが可能です。

  • 多様な基材への応用: 今回は酢酸セルロースアセテート膜で実証されましたが、この設計思想はシリコーンゴムやプラスチックなど、他の医療用ポリマーにも転用可能です。

  • カスタマイズ性: モノマーの配合比率を変えることで、ターゲットとするタンパク質や使用環境に合わせた「最適化コーティング」をすることが可能です。

  • 本技術は浸漬(ディップコーティング)というシンプルな手法をベースとしており、製造プロセスの構築が容易です。特別な大型装置を導入する必要はなく、溶液を循環させて加熱乾燥するだけで完了するため、高品質な製品をリーズナブルなコストで提供することを可能にします 。

 

具体的な活用方法と市場インパクト

本技術は、以下のような活用シーンが存在し、高付加価値なバイオ市場において極めて高い価値があります。


ワクチン・医薬品製造ろ過フィルタ市場: 2026年市場規模: 142.7億米ドル(約2.1兆円) 

タンパク質吸着による流量低下が32%から15%へと半分以下に改善されました。これにより、1枚の膜で処理できる積算流量がおよそ2倍へと増加し、交換頻度が減少します。バイオ精製プロセスではフィルターは「バッチごとの交換が前提の消耗品」であり、この交換サイクルを2倍に延ばすことができるため、フィルター関連予算の50%の削減(数千万円単位の年間消耗品予算)に寄与します。

製造ラインのフィルター寿命を延ばし、ダウンタイムを削減することで生産効率を向上させます。バイオ医薬品向けのろ過(フィルトレーション)市場は、医薬品ろ過(Pharmaceutical Filtration)市場全体の2026年予測は約142.7億米ドル(約2.1兆円)、CAGR 4.5%で2034年に203.8億ドルと予測。バイオ医薬品産業の成長と厳格な純度規制に伴い、目詰まりを防ぐ高性能膜への需要は極めて強固です。


医療機器(血液浄化透析膜市場): 2026年市場規模: 103.1億米ドル(約1.5兆円)

人工透析などの血液接触デバイスにおいて、血栓形成や性能低下を防ぐ安全な被膜として応用可能です。透析装置等に使用される「透析膜(Hemodialysis Membrane)」のグローバル市場は、2026年に103.1億米ドル規模と推定されています。2035年には150.1億ドルに達すると推定されています。

タンパク質吸着を抑制し、長時間の安定稼働を可能にする本技術は、消耗品の交換頻度を下げ、患者と医療機関双方の経済的負担を軽減する「次世代標準」となる可能性があります。

長時間の治療が終わるまで、最も重要なのは「コーティングが剥がれていないか」という信頼性です。 従来の物理的な吸着だけのコーティングでは、血流の摩擦で成分が剥がれ、患者の体内へ流入する懸念がありました。しかし、本技術は「界面における化学結合(網目状の結合)」という手法でポリマーを膜にがっちりと固定しています。この「剥がれない安定性」があるからこそ、長時間にわたる高度な血液浄化においても安心してデバイスを使い続けることができます。


次世代血液診断: 2026年市場規模: 4.5億米ドル(約670億円)

血液などから、がんの診断指標となる「エクソソーム」を高効率・短時間で回収できます。エクソソーム市場全体は急速に拡大しており、2026年の市場規模は約4.5億米ドル(約670億円)、CAGRは34.9%で2035年には67.5億ドルに達すると予測。

特に、ワークフローの55%以上を占める「分離・精製法」が最大の収益源となっており、本技術はこのコア領域を直接のターゲットとします。従来の超遠心法は16時間以上の時間を要し臨床現場には不向きでしたが、本膜技術による迅速回収は、診断市場(市場全体の約61%)での採用を加速させます。

これまでに、「目詰まり」と「透過性の低下」という二律背反の課題によって中空糸膜法の適用が阻まれてきましたが、本技術が「タンパク質を寄せ付けない」「極薄で穴を塞がない」「剥がれない」という3つの要素を同時に満たしたことで、次世代血液診断の現場における実用的な選択肢となります。

 

本研究成果は、これら合計で年間250億ドル(約3.8兆円)を超えるフィルトレーション・分離関連市場に対し、目詰まり解消という決定的なソリューションを提供するものです。

 

表: 経済的メリットのまとめ

メリット

内容

コスト削減

フィルターの長寿命化により、消耗品費と交換工数を削減

品質の安定

タンパク質の変性を抑え、ターゲットとなる物質の回収率を向上

処理能力の向上

長時間の運転でも安定した流量を維持できるため、生産スループットが増大

 

本論文は、バイオ精製における業界標準を塗り替える可能性の高い成果を示しています。本論文で使用されているハイドロゲルコーティングにご興味をもっていただけた方は、株式会社Gel Coat Biomaterialsまでご連絡ください。


論文

本論文は、オープンアクセスです。下記のリンク先から読むことが可能です。

Otomo, S., Masuda, T., Nakatsuka, S. et al. Cross-linked zwitterionic copolymer-modified cellulose acetate hollow fiber membranes to reduce protein adsorption. MRS Commun. (2026).

https://doi.org/10.1557/s43579-026-00933-y

 

市場情報

1. ワクチン・医薬品製造(医薬品ろ過・バイオプロセスろ過市場)

2. 医療機器(血液透析膜市場)

3. 次世代血液診断(エクソソーム診断・治療市場)


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独自開発したバイオマテリアル技術「Gel Coat™」について、このたび独占ライセンス提供を開始いたしました。 併せて、本技術の中核である超親水性コーティング技術を、バイオものづくり分野へ本格展開いたします。   本技術の詳細については、以下のプレスリリースをご覧ください。 ▶PR-TIMES 掲載記事は こちら

 
 
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